池辺かつみの『夜見の国から 残虐村奇譚』を読んだ。
実際に起きた殺人事件「津山事件」から着想を得たフィクションである。
決して万人受けする作品ではないが、間違いなく傑作だ。
展開は端的にいうと主人公が肺病をきっかけに村ぐるみのいじめを受けるようになり、最終的に殺人によって恨みを晴らそうとするというものだ。
以下、ネタバレを含む。
世界観は独特である。
主人公の感覚から見た世界が描かれている。
そこにはいないはずの尼さんが節目節目で主人公の前に現れるシーン、数年前に亡くなったはずの「トミ子」「トメ子」があたかも生きているかのように話しかけてくる様子、殺害されたはずの「寛子さん」が主人公の寝床に現れるシーン等がある。
こういった現実と虚構の一体化した世界の描き方が非常に巧みで、引き込まれずにはいられない。
この漫画は主人公がいじめ抜かれる救いのないストーリーでありながら、幻想的な雰囲気もかなりある。それは「尼さん」や「トミ子とトメ子」のシーンのなせる業であろう。
伏線の引き方もまた非常に巧みである。
上巻に、写真屋から送られてきた主人公の写真が極端にげっそりしており、主人公の祖母「婆様」も主人公が恋心を寄せている「みな子」も「これは写真館が別人の写真を間違えて郵送したのだろう」と口を揃えるシーンがある。
この時主人公だけがその写真を自分のものと信じ、「婆様トみな子ガ何ヲ言ッテイルカ解リマセンデシタ」「ソノ写真ハ紛レモ無ク僕デシタ」と認識している。
そしてその後主人公は肺病の罹患が発覚し、村人からのいじめも始まり、その写真のようにげっそりした顔つきになっていくのである。
構成は非常に優れており、無駄が無い。
ここは省いた方がすっきりするだろうという冗長なシーンがなく、全てのシーンが意味を持っている。上下巻にぴたっと最適化されて収まっている。
ここまで構成の良い漫画はめったにない。