【漫画】『美醜の大地』(藤森治見)を読んだ感想!

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『美醜の大地』(藤森治見)という漫画を読みました。

樺太出身の主人公・市村ハナが女学校で過酷ないじめを受け、いじめの延長で復員船から追い出され、次に乗った復員船がソ連の国際法違反の攻撃によって沈没させられ、母親と弟を一度に失う。

弟の遺骸を抱きかかえながら、ハナはいじめっ子への復讐を誓い、美容整形で顔を変えて別人の「小石川菜穂子」に成り変わる。別人を装っていじめた連中に近付いては、次々に陰惨きわまりない復讐を加えていく。

というストーリーです。

まずストーリーの悲惨さもさることながら、歴史モノではないのに歴史に忠実であることは特筆すべきです。

樺太が日本領土だったこと、ソ連の国際法違反の蛮行、在外領土からの引き揚げ者が味わった惨劇をしっかりと描写しています。

主人公が樺太出身の漫画はまずありません。

ソ連が戦争が終わってからも約1ヶ月に渡り日本を執拗に攻撃してきたこと、しかも非戦闘員をターゲットにしてきたことを伝える漫画もまずありません。

引き揚げの惨禍を描いた漫画もまずありません。

これらの点においてこの漫画は貴重です。

主人公の復讐の標的は、何不自由ない生活を謳歌している者だけではありません。

主人公の同級生には慣れ親しんだ故郷の喪失、命からがらの引き揚げ、樺太の豊原(本土でいう東京)よりも遥かに貧しい北海道での慣れない生活によって既に不幸になった者が多くいます。

そのような既にある種の報いを受けた者にも、主人公は容赦なく痛撃を加えます。

不幸になった人間にさらに不可逆的、致命的なダメージを与える話には、さすがに胸が悪くなりました。

キャラクターデザインは、1950年代頃が舞台なのに、どう見ても1990年以降のヘアスタイルの人物が散見されるのが残念といえば残念です。

建物や衣服は1950年代らしくデザインされています。

主人公とその協力者、中立的立場の者、復讐される者達が、いずれもキャラが立っているのは特筆すべきです。この手の敵を一人ずつ倒していくストーリーの作品は、敵に個性を出すのが難しいですから。

この作品の面白いところは、登場人物が単発でフェードアウトせずに何回も繰り返し登場することです。

そして主人公の復讐を受ける者達にそれぞれ個性があります。

主人公に反撃しようとして不慮の死を遂げる者、修復不可能な重傷を負いながら生存して主人公の殺害を誓い復讐の連鎖を生む者、真っ当に生きようとするも復讐の連鎖に巻き込まれる者、主人公に陥れられて失意の中で自ら命を断つ者など、様々です。

様々な後ろめたさを抱えた敵対者たちが主人公の苛烈な復讐を受け、ある者は死亡し、またある者は復活し、復讐を受けた者どうしが再会して手を組むこともあり、非常に重層的なストーリーが生み出されます。

人間の醜さ、いじめっ子、いじめの被害者、いじめっ子に付和雷同する者それぞれの心情、そして復讐の連鎖の悲惨さなど、いろいろなことついて考えさせられる作品です。

主人公の受けたいじめがあまりに非人道的で、同様に主人公からいじめた連中への復讐があまりに酸鼻で、死ぬ以上の苦痛が克明に描かれますので、決して万人に勧められる作品ではありません。

だからこそ、人間の醜さと向き合いたい人には間違いなくお薦めできる作品です。

画力 A
キャラクターデザイン B
心情描写 A
コマ割り等の見やすさ B
構成 A
設定 A
面白さ A

(A〜D、Fで評価)

以上。

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